がん免疫治療薬「オプジーボ」の開発に貢献し、2018年にノーベル医学・生理学賞を受賞した本庶佑(ほんじょたすく)・京都大特別教授らの研究グループは、老化で免疫力が低下し治療薬が効かない高齢マウスに「スペルミジン」という成分の投与を併用することで、がん免疫が向上し治療効果が回復したとする研究結果を27日付の米科学誌サイエンス電子版に発表した。高齢がん患者は若い人より免疫療法の有効性が下がる症例が多く、研究グループは研究成果が新たな治療法につながるとみて、併用治療の臨床応用を目指すとしている。
がんを攻撃する免疫細胞のブレーキを外すことで攻撃力を高める免疫治療薬は劇的な効果がある一方、高齢者をはじめとした半数程度の患者には効果が薄く、原因究明や併用治療の開発が急がれている。
研究グループは生物の体内に存在し、細胞の増殖などの生命活動に関与する成分「ポリアミン」の一種、スペルミジンに着目。スペルミジンは加齢によって細胞内の濃度が低下することが知られているが、老化による免疫力低下との関連性は分かっていなかった。
研究で免疫治療薬が効かない高齢マウスにスペルミジンを併用して投与した結果、免疫細胞の機能が向上し、がんに対する免疫が回復することを確認した。また細胞のエネルギーを生み出すミトコンドリア内の酵素にスペルミジンが直接結合し、免疫の回復・増強に作用するという仕組みも解明した。
老化による免疫力低下の原因の一端を明らかにする発見で、研究グループの茶本(ちゃもと)健司特定准教授は「時期は未定だが、がん免疫治療薬との併用による治療効果を臨床で確認したい」と実用化に向けた意欲を示し、「がんだけでなく、自己免疫疾患などの新たな治療法開発につながる可能性がある」としている。
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