人の目には見えないが、海の生物を死に至らしめる海洋熱波によって世界中の生態系に被害が出ているとする研究結果が発表された。世界各地の影響を単一の尺度で測定した試みとしては、これが初となる。海洋熱波による影響は、今後さらに破壊的なものになるとみられている。
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海洋熱波は定義上、特定海域の水温が、ある時期と場所に関する記録で上位5〜10%に入るほど「極めて高い」状態が少なくとも5日以上続くこととされている。
19の研究所が集まった国際的なチームは、さまざまな海域での海洋熱波の影響範囲を測定するために、生物と生態系の反応に関する1000件以上の現地調査結果から収集したデータを分析。このたび英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジ(Nature Climate Change)に掲載された論文によると、海洋熱波の発生日数は20世紀中期以降、50%以上増加している。
英国海洋生物学会(Marine Biological Association)の研究者で、論文の主執筆者ダン・スメール(Dan Smale)氏は、「世界的には、海洋熱波は発生頻度が高まるとともに長期化しており、過去10年間に大半の海底盆地で記録的な事象が観測されている」と指摘する。
海水位より高い位置にある地表では、過去19年のうちの18年で観測史上最高気温が更新され、暴風雨、干ばつ、熱波、洪水などの深刻化を招いているが、スメール氏はAFPの取材に対して、「大気の熱波によって、作物や森林、動物個体群などに悪影響がもたらされるのと同様に、海の熱波によっても、海洋生態系が壊滅される恐れがある」と話した。
猛暑が原因の死者は今世紀初めより数万人に及んでいるが、それに比べて海洋熱波は、科学的に注目されることがほとんどなかった。だが、海面水温の急上昇が続く状況もまた、破滅的な結果を招く恐れがある。
■人が食用にする魚や甲殻類も局所的に絶滅する恐れが
実例としては、2011年にオーストラリア西部付近で10週間続いた海洋熱波では、生態系全体が壊滅的な状態に陥り、商業漁業の対象種となる魚が低水温域に移動し、そのまま戻って来なくなった。2011年の熱波では、広大な藻場や「ケルプ(コンブ類)の森」が壊滅するとともに、それらに依存する魚やアワビなどが全滅した。
一方、浅水域での熱波の一番の被害者と言えるのはサンゴだ。昨年10月に国連(UN)の気候変動に関する関連組織が発表した報告書によると、たとえ世界の平均気温の上昇幅を努力目標の1.5度未満に抑えられたとしても──科学者からは不可能な目標という声も出ている──最大90%のサンゴが死滅する可能性が高い。
過去の研究では、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定(Paris Agreement)」が目標に掲げる気温上昇幅を2度より「かなり下」に抑制することに成功しても、海洋熱波の頻度、強度、継続期間は急激に増大するとされている。研究チームは今回の論文で、海洋熱波の頻度と強度が増大すると、漁獲高の減少や地球温暖化の促進などによって、人にも直接的な影響が及ぶと指摘している。
「人が食用にする魚や甲殻類は、局所的に絶滅するかもしれない」「さらに海草類やマングローブは、極度の高温に見舞われると蓄えている二酸化炭素を放出する可能性がある」と、スメール氏は話した。
人為的な温暖化で地球が加熱されると、過剰な熱の約90%を海洋が吸収してきた。だが、この「熱吸収スポンジ」がなければ、気温は耐え難い高さにまで上昇していくとみられている。(c)AFP
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