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https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200218-00059360-jbpressz-cn
日本で育った密教、いよいよ中国に帰る
小さいものが、大きなものを呑み込むこともある。
密教は歴史上かつて、2度、大帝国の国教となり隆盛を誇った時代があった。
最初が、世界帝国の唐、その次にチンギス・カンが築いた遊牧国家、モンゴル帝国である。
この2つの大帝国は、中央アジア、東南アジア、北東アジア、そして日本に政治、文化など大きな影響を与えた。
■唐の危機を救った密教の呪術
密教が巨大帝国に影響を与えた唐の時代の話である。
玄宗皇帝の寵愛を受けた楊貴妃とその一族に対し、安禄山とその部下、史思明らが、楊貴妃の一族を排除するため「安禄山の反乱」(755年から763年)を起こした。
発端は楊貴妃の従兄で宰相となった楊国忠と安禄山との対立である。当時、安禄山は皇帝の玄宗から軍を任され多くの兵力が委ねられていた。
安禄山は挙兵すると、唐政府軍に連戦連勝し、首都長安を制圧。
楊貴妃は皇帝を惑わせた罪を着せられ、玄宗の意を受けた部下により絞殺。そして玄宗は退位。息子で皇太子であった粛宗が皇帝に即位する。
粛宗からの勅命により、長安の大興善寺に入った中国密教の大成者、不空は護摩壇を築き怨敵調伏(祈祷によって敵を呪い殺す)の呪術を朝敵である安禄山にかけた。
この時、不空が修したのが大元帥法という密教史上最強の呪術といわれている。
修法が効果を顕したのか、安禄山は突如失明し、悪性の腫れ物である疽を病み、実子である安慶緒に殺された。
その安慶緒も、父、安禄山の部下である史思明に殺され、また史思明もその子、史朝義に殺された。
不可解ともいえる身内による暗殺の連鎖により安史の乱は平定。
これにより唐王朝の帰依を集めた不空は、玄宗・粛宗・代宗の皇帝3代に仕え、密教を隆盛へと導いた。
密教は皇帝が帰依した国家の宗教の地位を占めるに至った。
不空は大興善寺にて774年、入寂。その30年後、空海が唐の都の長安に入り、日本密教は黎明を迎えることになる。
■モンゴル帝国を嚥下した小国チベット
軍事力や経済力で大国が小国を呑み込む話は、歴史の中でたびたび登場するが、文化や、宗教で小国が大国を嚥下する話も度々登場する。
チンギス・カンが1206年に創設したモンゴル帝国がチベットに攻め入るやいなや、ここを制圧、チベットはなすすべもなくモンゴルの軍門に下った。
だがチベット密教高僧のパクパは1260年にクビライ(後に日本にも2度侵攻・1度目を文永の役1274年、2度目弘安の役1281年と呼ぶ)がモンゴル帝国の第5代の皇帝である大ハーンに即位すると、パクパを皇帝の指南役ともいえる帝師に任命。
モンゴル帝国における宗教的統治の全権を任せた。
パクパはチベット密教をモンゴルの支配地域全土に定着させ、チベット密教はモンゴルの国教となった。
そして、いまなお、中国国内の広大な地域にチベット仏教とその文化は深く根づき、人々の暮らしに大きな影響力を与えている現実に、共産党指導部がダライ・ラマなどの宗教指導者を警戒する背景がある。
中国密教は密教大成者である不空と恵果の2人によって確立され、そして恵果から空海へと繋がり、いまの日本密教である真言宗がある。
空海が唐に渡ったのと同じ時期、唐に渡った最澄は、日本で比叡山天台宗を開き、そこから浄土宗の法然、浄土真宗の親鸞、時宗の一遍、日蓮宗の日蓮、臨済宗の栄西、曹洞宗の道元などの祖師が学び、のちに鎌倉新仏教へと発展し花開く。
日本密教である真言宗は、宗派はいくつかに分かれるが、中国密教を源流とし、その法は正確に継承され、その真髄は、空海が請来した当時の、ほぼ手つかずのまま現在に受け継がれている。
中国は文化大革命により、宗教は完全に消滅。その後、改革開放により、経済的発展は周知のとおりである。
人は豊かになっても、不満や怒り、悩みや失望はなくならない。また、物質に満ち足りた生活が、人の幸せを意味するとも限らない。
むしろ、人は恵まれるほど不満や怒り、悩みや失望が増える傾向があるのではないだろうか。
文化大革命は過去の話だが、現在も中国には共産党支配のもと、宗教を規制する動きがある。
だが、中国の人々は今後必ず精神の安寧を求め、宗教ブームがやってくると私は確信する。
なぜなら、人間は金銭や名誉、物質の個人的な欲望がある一方、本能的に慈悲・慈愛が伴う安らぎを満たすことで、精神の均衡を保つ生き物だからだ。
中国にはすでにチベット密教がある。だが、ダライラマは60年前にインドに亡命、チベットも中国からの独立問題を抱え当局から国家分裂の火種とされている。
一方、元々中国から伝わった日本密教が、もし中国に逆輸入という形で戻すことができたとしたならば・・・。