三菱重工の長崎造船所香焼工場
新型コロナウイルス感染症の拡大で、国内造船会社に思わぬ需要が生まれている。船主企業が中国の造船所で修繕できなくなった案件を、日本の企業に発注しているためだ。三菱重工業長崎造船所香焼工場(長崎市)には修繕を行う大型客船3隻が停泊中で、三井E&S造船と川崎重工業の修繕事業会社・MES―KHI由良ドック(和歌山県由良町)や三和ドック(広島県尾道市)なども船の修繕作業がフル稼働の状態だ。他方で中国製救命艇やアンカーチェーンが届かなくなったため、新造船の納期遅延が顕在化しているとの指摘もある。
三菱重工の香焼工場では、イタリアのコスタ・クルーズが所有する「コスタ・アトランチカ」が外板塗装工事などで修繕中。総トン数が8万6000トンの大型船で、他に「コスタ・ベネチア」(13万5000トン)と「コスタ・セレーナ」(11万4000トン)の大型客船も停泊中だ。三菱重工は国や長崎県、地元経済界などと共同で客船修繕に取り組んでおり、今回の注文が引き続き新たな受注につながらないか期待をかける。
三和ドックも修繕船事業はフル稼働の状態だ。「船舶点検は5年に1回なので、2020年は10年に造られた大量の船が定期点検を必要とする時期に当たる。そこに環境規制対応と今回のコロナウイルスの影響が加わり、一部は断っている状態」だという。MES―KHI由良ドックもコロナウイルスの影響で「客からの引き合いは通常の数倍に増えている」と話す。ジャパンマリンユナイテッド(横浜市西区)も「修繕船を手がける囚島工場のドックはフル操業状態」という。
中国の造船所がフル稼働となるのは短期的には困難と見られるだけに、国内の修繕船市場の活況は数カ月、持続する可能性は高い。ただ、これを機に設備投資や人員増強をするかになると各社は慎重だ。修繕船事業はもともと単価が低く、注文が人件費の安い中国や新興国に流れていた背景がある。収益面からみると効果は限定的で「むしろマレーシアやインドネシアなどの新興国の注文が拡大するのではないか」と三和ドックはみる。
新造船の納期遅延は、中国に続いて日本でも顕在化しつつある。救命艇やアンカーチェーンは船を構成する1部品だが、これがないと船主に引き渡しができない。「救命艇は単価が安いため国内で製造する会社がいなくなり、中国へ流れた事情がある。今回はそのツケが出ただけ」と、ある造船大手は語る。
(取材・嶋田歩)
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