>>42 印欧語で格変化と呼ばれるものは、正確には曲用declentionといって、性・数・格の組合せで一つの形を
とるものです。ラテン語でrosas bellasというと「可愛い花(複数)を」という意味になります。語尾の-asがどちらも
女性・複数・対格を意味し、形容詞が名詞に一致しています。同じくpuerum bellumというと「可愛い少年
(単数)を」という意味になります。語尾の-umがどちらも男性・単数・対格を意味し、形容詞はここでも名詞
に一致していますね。-asと-umを比べるとわかるように、どこにも「対格」だけを意味する要素はありません。
格だけが変化を起こすのではなく、性・数との組合せではじめて形が選ばれるのです(屈折語の特徴)。
これらを目的語とする述語動詞をたとえばvideo(私は見る)とすると、rosas bellas video(私は可愛いバラを
見る)を仮にbellas videoとだけ言っても、「何か可愛い複数の女性名詞のもの」を見ていることは伝わるわけ
ですが、反面、bellasにもまたbellumにも日本語の「連体形」のような仕組みはなく、ただ名詞とまさに「同格」
で置かれていることによって修飾関係にあることを「暗示」するのです。
名詞と形容詞、そして代名詞のこうした「曲用」は、動詞の活用conjugationと区別され、対を成すものです。
印欧語の活用は、主語の人称と数、態(ヴォイス)、時制、法(ムード)の組合せで形が決まります。上記の
video(私は見る)という語形は、主語1人称単数・能動態・現在時制・直接法という文法要素の組合せです。
名詞・形容詞・代名詞の曲用と、動詞の活用は、全く違う形をしていて、全く異なる変化の仕方をするので、
区別できないということは決してありえません