[東京 8日 ロイター] - 安倍晋三首相は7日の会見で、緊急事態宣言を1カ月で終了するには、人と人との接触を8割ないし7割削減する必要があると強調した。だが、テレワークの実施率が5.6%に過ぎないという衝撃的な結果が、厚生労働省がLINE(3938.T)に委託して実施した全国調査で明らかになった。新型コロナウイルスの感染拡大リスクの一つとして若者の無理解が強調されてきたが、企業経営者の対応にも大きな問題がありそうだ。
政府は緊急事態宣言の効果を高めるため、大企業だけでなく中小・零細企業も含め、早急にテレワークの実施促進を強く要請するとともに、設備不備などのネックを探し出し、補助金を投入することなどでテレワークの実施率を大幅に高めてほしい。
<制度未整備が壁>
この調査は、3月31日から4月1日にメッセージアプリ「LINE」を使用している国内ユーザー約8300万人を対象に実施。約2400万人から回答を得た。それによると、「仕事はテレワーク」にしているとの回答は全体の5.6%だった。
また、パーソル総合研究所が3月9─15日に全国の20─59歳の正社員を対象に
インターネットで調査した結果(有効回答2万1148件)では、テレワークの実施率は13.2%だった。 実施されていない86.8%のうち、33.7%が「希望しているができていない」と回答した。
実施していない理由として「テレワーク制度が整備されていない」との回答が41.4%、「テレワークで行える業務ではない」が39.5%、「テレワークのためのICT(情報通信技術)環境が整備されていない」が17.5%だった。
国内の新聞、テレビ、雑誌などの報道では、10─20代の若者がコロナウイルス感染の深刻さに鈍感で、政府や自治体などからの外出自粛要請に従わないケースが多いと指摘されてきた。
しかし、2つの調査からわかるのは、企業経営者の「無理解」もかなり深刻ということではないか。
<休日より平日の利用度が高いワケ>
東京メトロの調査によると、今月4日(土曜日)の利用率(全線)は前年比30%、5日(日曜日)は同25%と大幅に減少している。ところが、その直前の3月30日─4月3日の平日5日間は同62%、その前週の3月23日─27日は同77%と休日に比べ、かなり利用率が高い。
この間、小・中・高校は臨時休校になっており、平日の利用率の高さはサラリーマンなど通勤客の利用が大きくは減少していないことをうかがわせる。この結果は、テレワークの実施率の低さと符節が合うのではないか。
<政府の強い要望不可欠>
安倍首相が唱える接触率の80%カットは、食品や医薬品に関連する産業や官公庁、金融機関、物資輸送に関係する分野の通常稼働を前提にすると、それ以外の産業ではほとんどの企業でテレワークに従事しなければ達成は不可能だろう。
その意味で、テレワーク実施率5.6%の意味は大きい。政府は早急に事態の改善に取り組むべきだ。あらためて企業経営者に強くテレワークの実施を要請を行うとともに、障害になっているシステム不備の実態をチェックし、必要なIT装備の導入に予算を付けて、実施率をせめて50%超まで引き上げる必要がある。
そうでなければ、今後、2週間で感染者の増加数をピークアウトさせるという政府の目論見は、絵に描いた餅になってしまうだろう。
安倍首相は、手をこまねいていると1カ月後の感染者数が、東京都なら8万人を突破してしまうと危機感を募らせていた。この事態を回避するため、テレワークの実施率引き上げが何よりも優先されるべき事柄だ。
厚労省とLINEは、4日と5日に2回目の調査を実施した。実施率が少しでも改善している結果になっていることを願うばかりだ。
https://jp.reuters.com/article/column-tamaki-idJPKBN21Q0J3