最先端のがん治療薬の開発に情熱を注ぐ科学者らが創造性をかき立てるために立ち寄る、思いがけない場所-それはトイレだ。
ヒトの腸管内などにある膨大な数の微生物の集団「マイクロバイオーム(常在細菌叢(そう))」と、腫瘍細胞と闘う生体防御機構を活性化する医薬品による免疫療法の効果に関連性があることは新手の研究が示唆している。ヒトの消化器官のマイクロバイオームの理解を深めようとする機運が盛り上がり、患者の排泄(はいせつ)物の詳細な研究に着手する動きが世界中の企業で広がっている。
人体における病原菌の感染防御の最前線の役割を果たすマイクロバイオームは、人によって組み合わせが異なり、病気への感染のしやすさや治療に際しての反応に影響を及ぼす可能性がある。10社以上のバイオテクノロジーの新興企業がマイクロバイオーム研究の商業化を図ってしのぎを削る中、少なくとも2社が来年までをめどに、患者への治験開始を目指している。
米ニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターで骨髄移植を担当するジョナサン・ペレド医師は「今話題の免疫治療薬が腸管フローラと関係するようになってから、バイオテクノロジー分野が真の意味で脚光を浴びるようになった」と語る。
2017.7.7 05:59
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170707/mcb1707070500004-n1.htm
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/170707/mcb1707070500004-n2.htm
免疫療法は大いに有望視されており、年間売上高は2020年までに3倍の220億ドル(約2兆4880億円)に達する可能性がある半面、少数のがん患者にしか効かないことが分かっている。また、免疫療法は多くの場合、肝炎や消耗性の下痢の原因となる大腸炎といった、激しく予測不能な副作用を引き起こす。製薬業界のマーケットリーダーであるメルクやアストラゼネカ、ブリストル・マイヤーズスクイブ、ロシュ・ホールディングなど大手製薬会社がさらに数十億の利益を得るには、激しい副作用が少なく、もっと多くの人々に効く薬でなければならない。
セブンチュア・パートナーズやフラッグシップ・パイオニアリングといったベンチャーキャピタルから、製薬大手のブリストル・マイヤーズ、医薬・日用品のジョンソン・アンド・ジョンソンと多岐にわたる投資家が数年来、がん治療を目的としたマイクロバイオームの新興企業に1億2500万ドル以上を拠出している。この分野の新興企業はパリとボストンに密集しており、主に消化管壁から採取するバクテリアを数万件もの糞(ふん)便サンプルで分析している。バイオテクノロジー会社、仏エンテロームのピエール・ベリシャルド最高経営責任者(CEO)は「糞便サンプルの採取は、今日では血液を採取するのと同じように一般的になっている」と話した。(ブルームバーグ Naomi Kresge)