
https://mainichi.jp/articles/20180129/k00/00e/040/161000c
名古屋市瑞穂区の雁道(がんみち)地区で地域の台所として親しまれてきた「栄市場」が3月31日、93年の歴史に幕を下ろす。大型スーパーの進出や住民の高齢化など時代の流れにあらがえなかった。
栄市場は1925(大正14)年、現在の中区栄地区から移設する形で建てられた。各店舗が土地と建物を所有する協同組合方式で、現在は19店舗と組合直営の3店舗が入居。
肉屋、魚屋、八百屋のほか衣料品店、靴屋、はんこ屋などが並ぶ。客の多くは近所の高齢者で、店主と世間話をしながら買い物を楽しむ。少量ずつ販売しているのも特徴だ。
市地域商業課によると、市内には建物を市が所有する公設市場と栄市場のように民間が所有する民間市場がある。大正時代の米騒動を契機に市民に安価な食料や生活必需品を提供しようと生まれ、戦後は闇市が転じる形で増加したという。
ピークの76年には計416市場あったが、大規模小売店の増加などに伴って減少し、現在市が把握しているのは27市場にとどまる。
栄市場協同組合の山本国夫理事長(73)によると、栄市場にはかつて34店舗が入居していたが、30年ほど前から徐々に減り始め、ここ10年は空き店舗が目立つように。
近所に大型スーパーが複数進出して客が流れ、高齢化した住民が施設に入居したり子どもと同居したりして自宅を離れることも増えたという。「商売が時代に合わなくなった。組合員みんなで頑張ってきたが、潮時だと考えが一致した」と話す。
60年前から魚屋を営んできた大野桂一さん(80)は「昔は市場に人がごった返して歩けないぐらい。スリが出没するほどだった」と懐かしむ。
近くに住む常連客の女性(70)は「若い頃は家族で遊びに来るデパートみたいなものだった。私は車を運転できないし、ここがなくなったらどこで買い物すればいいのか」と肩を落としていた。【太田敦子】