2017.11.09 THU 18:00
「オスプレイ」の進化形「V-280」の試作機が完成──米軍輸送ヘリの後継有力候補に
「V-22オスプレイ」の技術的な進化形となる新型ティルトローター機「ベル V-280 Valor」が、初の地上試験を行った。
途方もなく複雑なV-22オスプレイと比べると、より小さくシンプルで安価につくれるという。米軍の輸送ヘリを代替する最有力と目されている新型機のテストに迫った。
TEXT BY JACK STEWART
TRANSLATION BY KENJI MIZUGAKI/GALILEO
PHOTOGRAPH COURTESY OF BELL HELICOPTER
派手な黄色の安全手すりで囲われた灰色のコンクリート製の台の上で、武骨な印象の軍用機がプロペラを回している。
だが、ふたつのプロペラブレードはただ回転するだけで、この“野獣”が動き出す気配は少しもない。
なぜなら、どれほどの力で浮き上がろうとしているのかを荷重センサーで計測するために、機体はボルトでコンクリートに固定されているからだ。
離陸しないにしても、今回のプロペラの動作テストによって、この新型航空機の開発はひとつのマイルストーンを刻んだ。
これは、広く知られた「V-22オスプレイ」の技術的な後継であり、旧式化した米陸軍の輸送用ヘリコプター「ブラックホーク」の後任候補の最右翼と目されている航空機だ。
この日、新型ティルトローター機「ベル V-280 Valor(ヴァロー)」は、コンクリート上で行った初の地上試験で2基のエンジンを始動した。
そして、まだこの世に1機しかないプロトタイプの各システムの正常な作動を確かめるため、大勢のエンジニアたちが、ありとあらゆるパラメータを監視していた。
設計者たちの狙いどおり、従来型ヘリコプターの2倍の速度と航続距離をもつようになったV-280が部隊に配備されれば、現在使用されている輸送用ヘリコプターは
お役御免となるだろう。
快適すぎるコックピット
「おっ、これはすごい」──。
テキサス州アマリロにあるベルヘリコプター・テキストロンで、小さなドアを通り抜け、天井が高くて照明の明るいV-280の組み立てハンガーに入った瞬間、思わずそう口走った。
このティルトローター機の外観は、ほかの軍用機とはあまりにもかけ離れていたのだ。
うっかりするとSFドラマ『GALACTICA/ギャラクティカ』(原題:Battlestar Galactica)の小道具係が考え出した空想上の航空機と混同しそうになる。
「本当にすごいんですよ」と、ベルの組み立て作業担当副社長、シャノン・マッセイは笑いながら同意した。
どうやらそのようなリアクションには、すっかり馴れているようだ。
確かにV-280は、既存のどの航空機とも違っている。
1980年代の終わりに設計された、途方もなく複雑なV-22オスプレイと比べると、V-280はより小さく、シンプルで安価につくることができる。
ベルは、ボーイングとの共同プロジェクトでV-22をつくったときの経験を生かして、組み立てとメンテナンスを楽にすることを念頭に置きつつ、白紙の状態からV-280を
設計してつくり上げた。
翼の下をくぐってコックピットに足を踏み入れると、まず驚かされるのは、ほぼ全面がガラス張りになっていることだ。
これならV-280の操縦士たちは、自分が飛んでいる空域(あるいは戦場)の全体を見渡すことができるだろう。
操縦士たちにとっての快適性も考慮されている。
フライト・コントロール・アヴィオニクスは、ロッキード・マーティンの輸送機「C-130K(ハーキュリーズC.1)」のシステムをベースにしたもので、計器盤にはフラットで
大きなスクリーンが組み込まれている。
また、ベルが目指す速度と航続距離を考えると、操縦士の疲労が問題になりうる。
このため設計チームは、従来のセントラル・サイクリック・スティック(ヘリコプターパイロットの両脚の間にある操縦桿)に代えて、操縦士が右腕で操作しやすい位置に
ジョイスティックを設けた。
https://wired.jp/2017/11/09/bell-v280-valor/